このウェブサイトでは、紅葉山文庫旧蔵本に関連するデータベースを統合したデジタルコンテンツ「Digital 紅葉山文庫」を公開し、旧蔵書研究の方法により、江戸幕府紅葉山文庫の全容を再現することを目指しています。歴史的な存在としての紅葉山文庫については、トップページの「紅葉山文庫について」をご覧下さい。
1.旧蔵書研究について
書籍には、人が産み出したものでありながら、個人の生涯よりも長い時間と空間を超えて存在するという特色があります。またその過程では、人々の意図や偶然に基づく集散がおこり、「蔵書」を形成します。書籍群としての蔵書は、時と共に変化し、形成と消失を繰り返しますが、それぞれの局面で、蔵書特有の文化的な意義を発揮します。そこで、書籍文化を研究する書誌学の一翼として、蔵書の把握と、その文化的意義の発見を目的とする、蔵書研究という方法が行われてきました。
この方法は、すでにまとまりの失われた「旧蔵書」をも対象とする可能性をもっており、関連史料の分析を複合し、その文化史的意義を明らかにする、旧蔵書研究という、応用的研究を展開することが期待できます。当コンテンツは、新たに考案された、この書誌学的旧蔵書研究というテーマのもとに計画されています。
2.史料から見る
すでに分散した「旧蔵書」である、紅葉山文庫を捉えるために有効な方法がいくつかあり、その1つは、過去に記録された史料から、文庫の実態を窺う方法です。紅葉山文庫には、その管理者である書物方と、幕府の諮問を受ける大学頭の共同作業により、蔵書総覧のための目録が、何度か作られています。これら歴代の目録が、紅葉山文庫の動きを知るための、大きな拠り所となります。「歴代目録」のデータベースは、これらの目録を校訂し、その内容をコンピュータ端末から閲覧したり、検索したり、また現存の原本との関係が推測できるよう工夫した内容です。
また紅葉山文庫には、書物方の作成した『御書物方日記』という記録があり、江戸中期から後期に渉る、約150年間の動静を伝えています。その内容は膨大なものですが、このコンテンツでは、紅葉山文庫旧蔵の書籍そのものに関心を絞り、出納の対象となった個別の書籍に関する記事を抄録し電子化しました。その記録と歴代目録とを併せ見ることにより、書籍の集散と使用の経緯を垣間見ることができます。
これら史料中の書籍に関するデータは、歴代目録中、最終版となった『元治増補御書籍目録』を元に、書名に基づくリンクによって、相互に参照することができます。
上記史料の詳しい内容については、それぞれのコンテンツに附した解説をご覧下さい。また詳しい操作方法については、トップページのヘルプをご覧下さい。
3.原本から見る
紅葉山文庫を捉えるもう1つの方法は、文庫旧蔵の原本そのものを見ていくことです。原本の観察には、原本を手に取ることが必要ですが、原本の記録である書誌と、原本の影像を参照することによって、書籍の特質と、その収集、保存、使用実態の一斑を窺うことができます。紅葉山文庫旧蔵本の多くは貴重書であり、原本を繰り返し使用して仔細に研討することが、適切でない場合もありますが、ウェブコンテンツの利用により、その効率的かつ多角的な推進が可能です。
そうした観察研究ためのコンテンツが、紅葉山文庫本の電子的な書誌と影像のデータベースです。これらのデータを見る手順として、「分類目録」と「書籍検索」という、2つの経路を設置しました。両者とも書誌データに基づく内容ですが、前者は、図書整理の伝統に則った、内容分類による排列から書籍を選択する方法、後者は、電子データの検索により、選択肢を機械的に特定していく方法に拠ります。検索するデータには、叢書の子目を含め、書誌に含まれる各種の細目を選ぶこともできます。また、これらの書籍全文の影像は、分類目録、書籍検索の結果、書誌の個別の題目から閲覧することができます。
データ作成のための書誌調査の対象は、国立公文書館、宮内庁書陵部図書寮文庫の2機関の蔵書であり、慶長19年(1614)に徳川家康から江戸幕府に贈与された御譲本30部、元和2年(1616)家康の遺志により幕府に分配された御譲本52部のうちの、現存する65部を当初の収録とし、旧鈔本、宋元版等の善本類を、これに加えました。
国立公文書館所蔵の内閣文庫本の影像は、国立公文書館によるコンテンツ「国立公文書館デジタルアーカイブ」(https://www.digital.archives.go.jp/)において、順次公開が進められていることから、同時に公開されているリンクを用い、当該サイトへの遷移によって利用者の参照に供します。宮内庁書陵部図書寮文庫所蔵本の影像は、本共同研究事業により作成した写真画像により、本ウェブサイト内で閲覧することができます。以上の詳しい操作方法については、トップページのヘルプをご覧下さい。
4.史料と原本の相互参照について
すでに形を変えた旧蔵書において、過去の実態に基づく史料を見るだけでは、書籍の詳細な姿や、個別の価値を知ることはできません。しかし、現存する原本を見るだけでは、失われた書籍を含む蔵書の全体像を知ることはできません。2つの接近方法は、相互に参照することによって、すぐれた効果を得ることができます。
紅葉山文庫旧蔵本の伝存は、すでに完全な形ではありません。この認識に基づき、当コンテンツでは、デジタルデータを用い、史料と原本の両者を結び付けることにより、相互の参照を可能とします。具体的には「歴代目録」のうち、幕末の最終版に当たる『元治増補御書籍目録』の書目データを根幹として、原本の書誌データや諸史料の含むデータを対照し、合致する可能性のある場合には、相互のウェブページに遷移するリンクを設けています。合致の可能性については、書目およびその別名、員数を標準として柔軟に判断し、可能性を広く示す方針としました。この措置によって、紅葉山文庫の歴史的な動態と、現存本の関係が、より詳しく把握できます。
5.コンテンツの作成について
当コンテンツの作成は、原本所蔵者である宮内庁書陵部、国立公文書館の、研究事業への深いご理解とご協力に基づいて実施されました。
コンテンツに収録する書誌は、紅葉山文庫旧蔵書研究会による原本の調査に基づく内容であり、書誌調査とその研討は、下記のメンバーにより行いました。
會谷佳光、浅井万優、荒木裕行、李裕利、一戸渉、上原究一、大木康、木村麻衣子、金文京、黄昱、河野貴美子、小秋元三八人、小林優里、齋藤慎一郎、佐々木孝浩、佐藤道生、清水信子、鈴置拓也、ブライアンスタイニンガー、住吉朋彦、高橋悠介、武田祐樹、陳捷、鄭幸、中原理恵、表野和江、堀川貴司、矢島明希子、柳川響、山田尚子、李華雨、劉青、廖嘉祈、脇山豪
史料に基づくコンテンツの作成は、当研究会編集ユニットの下記メンバーを中心に行いました。
荒木裕行、一戸渉、小林優里、住吉朋彦、中原理恵、山田尚子
本システムの開発は、当研究会電子化ユニットの下記メンバーを中心に行いました。
會谷佳光、上原究一、木村麻衣子、住吉朋彦、高橋悠介、脇山豪
当コンテンツの外国語への翻訳は、下記メンバーが監修しました。
ブライアンスタイニンガー、陳捷
このコンテンツは、平成24至28年度科学研究補助金による基盤研究(A)「宮内庁書陵部収蔵漢籍の伝来に関する再検討―デジタルアーカイブの構築を目指して―」、令和2年至6年度同基盤研究(A)「江戸幕府紅葉山文庫の再構と発信―宮内庁書陵部収蔵漢籍のデジタル化に基づく古典学―」、及び平成24至25年東京大学東洋文化研究所東洋学研究情報センター共同研究「日本漢籍集散の文化史的研究―「図書寮文庫」を対象とする通時的蔵書研究の試み―」、平成26至27年同共同研究「日本所在漢籍に見える東アジア典籍流伝の歴史的研究―宮内庁書陵部蔵漢籍の伝来調査を中心として―」の成果の一部です。