藍色表紙(30.2×11.2cm),中央打付に金泥にて「大般若經卷第一[ ]天」等と書す,折本,副葉1張(2面),本文黄染厚手竹紙
「勑賜福州東禪等覺禪寺天寧萬壽大藏」,崇寧2年陳暘,【第1帖】1張「勑賜福州東禪等覺禪寺天寧萬壽大藏/(以下低1格)<暘>竊見 朝廷近降指揮/天寧節天下州軍各許建寺以崇寧爲額仍/候了日賜經一藏有以見/聖朝紹隆佛乗祝延/睿筭實/宗廟無疆之福然<暘>契勘大藏經唯/都下有板甞患遐方聖敎鮮得流通於是親/爲都大勸首於福州東禪院勸請僧慧榮冲/眞智華智賢普明等募衆縁雕造大藏經板/及建立藏院一所至崇寧二年冬方始成就<暘>欲乞/勑賜東禪經藏崇寧萬壽大藏爲名祝延/聖壽取 鈞旨/(更低1格)<十一月 日奉議郎守尚書禮部員外郎充講議司叅詳官陳《暘》劄子>」　牒,崇寧2年蔡京,蔡卞,許將,趙挺之,呉居厚,安惇,徐鐸等,第1張「(以下低1格)十一月二十日進 呈三省同奉/聖旨依所乞已降/勑命訖二十二日午時付禮部施行仍關合屬去處/尚書省牒福州崇寧萬壽大藏/禮部員外郎陳<暘>白劄子竊見/朝廷近降指揮/天寧節天下州軍各許建寺以崇寧爲額仍候了/日賜經一藏契勘大藏經唯/都下有板於是親爲勸首於福州東禪院勸請僧/募衆縁雕造大藏經板及建立藏院一所欲乞/勑賜東禪經藏以崇寧萬壽大藏爲名候指揮/牒奉/勑冝賜崇寧萬壽大藏爲名 牒至准/勑故牒/(更低1格)崇寧二年十一月二十二日牒/(以下低1格)<司空兼尚書左僕射門下侍郎上柱國南陽郡嘉國公蔡 《京》/金紫光禄大夫知樞密院事上柱國南陽郡開國公蔡 《卞》/特進行門下侍郎上柱國長樂郡開國公許 《將》/右光禄大夫守中書侍郎上柱國天水郡開國侯趙 《挺之》/左光禄大夫守尚書右丞上柱國武昌郡開國侯呉 《居厚》/右光禄大夫同知樞密院事上輕車都尉壽陽縣開國伯安 《惇》/朝散大夫試禮部尚書兼修國史實録修撰徐 《鐸》>
天地単辺(24.9×67.2cm)無界,1張6面,毎面6行,毎行低1格17字(諱字単擡)
(第645帖)放光般若波羅蜜經卷1第1張第1面第1行より,低格して,「<福州東禪等覺院住持傳法慧空大師<沖真>等謹募衆縁恭爲/今上皇帝 太皇太后 皇太后 皇大妃祝延 聖壽國泰民安/開鏤大藏經印板一副揔計五百函函各十卷元豐八年乙丑歳五月日謹題>」記あり　(第907帖)大方廣三戒經卷上第1張第1面第1行より,低格して,「<福州管内衆縁就開元禪寺雕造毗盧大蔵經印板一副計五百餘凾恭爲/今上皇帝祝延聖壽内外臣僚同資禄位都會首顔徽曽𦀡陶瑴張嗣林桷陳芳林《昭》/劉居中蔡康國陳詢蔡俊《臣》劉漸陳靖謝忠前管句沙門《本悟》見管句沙門僧仟/證會前住持《本明》見住持宗鑑大師元忠當山三殿大王大聖泗洲時宣和六年八月 日 謹題>」記あり
(第5236帖)佛說大乗善見變化文殊師利問法經卷末に「石清水八幡宮常住 六波羅武蔵守長時施入」墨識あり,第1288帖表紙裏をはじめ各処に単辺方形陽刻「法華/山寺」朱印記あり
唐末以来仏教が盛行した福建では,北宋神宗の時代に慧空大士冲真らの発願によって福州の東禅等覚院で開版され,30余年後の徽宗の時代に完成した「東禅寺版」(「崇寧蔵」ともいう)と,その完成と入れ替わるように本明禅師の発願によって福州の開元禅寺で開版され,約40年後の南宋高宗の時代に完成した「開元寺版」(「毗廬蔵」ともいう)の二種の大蔵経が刊行された。日宋･日元貿易により日本に伝来した多数の福州版のうち,現存すべてが両蔵の混合蔵である。 書陵部蔵本は両蔵の補刻･続刻部分を含む南宋後期印の混合蔵で,経典単位,巻単位,張単位の混合が数多く見られる。版式は毎面6行17字に画一化されているが,続刻の天台三大部等では経典によって版式が異なり,大方広円覚略疏注経は有界5行13字の有句点本を4巻から8巻に改修した痕跡が見られる。最末尾に収録される大宋高僧伝30巻は福州版ではなく,湖州思渓版大蔵経本である。 各張の折り目に工名(2字以上の者800名余)･施財記･換板記等を刻す。しばしば各帖冒頭に数行の題記を存するも文面や記年を異にし,大きく分けて,東禅寺版の巻首に19種579件,開元寺版の巻首に55種2,480件見られる。開元寺版の工名が見られる帖には,題記のあるべき巻首3行または6行が空白となっているものも1,000件余存する。 東禅寺版の副葉紙背をはじめ各処に単辺方形陽刻「東禪/大蔵」朱印記,開元寺版の副葉紙背をはじめ各処に単辺長方形陽刻「開元經局染黄紙」朱印記,第2132,2417帖副葉,第4269帖第12張の紙背に単辺長方形陽刻「葉福印造」印記あり 書陵部蔵本は,1262-63年頃,京都西山の法華山寺開基の慶政上人(1189-1268)が同寺に将来したもの。慶政上人は1217-18年に渡宋し,後年,東禅等覚院に一切経補刻のための施財を行ったため,本蔵の42箇所に「日本国僧慶政捨」等の施財記が見られる。中世に入ると,京都の石清水八幡宮に帰し,経典の補写,紐の取り替え,経蔵の改修,大般若経60函中51函の流出と回収,経箱の寄進(600余箱中570箱現存。1箱10帖前後を納める)等を経歴した。明治時代になると,神仏分離政策の影響により売却され,その大部分を近江の小島某が購入し,『大般若波羅蜜多経』他10数部を大坂の事業家森本佐兵衛が購入した。小島某購入分は明治19年に内務省が買い上げた後,同24年に宮内省に移管され,森本佐兵衛購入分は大正15年に宮内省に献納され,ともに図書寮に架蔵されるに至った。 【参考文献】 中村一紀氏「書陵部所蔵宋版一切経の来歴について、その印造から現代まで―時々の保全活動を交えて―」(田島公編『禁裏･公家文庫研究』第2輯,2006,思文閣出版) 野沢佳美『印刷漢文大蔵経の歴史―中国･高麗篇―』(『シリーズ･アタラクシア』3,2015,立正大学情報メディアセンター)